猫まち

山崎るり子・みじか詩

2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

   ■

猫地蔵の尻尾の先に止まっている赤とんぼ

   ■

猫を捜して夕暮れ猫待つ人の家に帰る

   つづき

「下駄屋はハナヨ,小間物屋はポポケ, 自転車屋はチリリ,パン屋はコッペ そう呼んで食事を与えていた その結果 脂肪肝,心筋症,糖尿,椎間板ヘルニアの こんな肥満猫ができてしまった」 猫はあまり自分が注目されているので 背中でも舐めて落ち着こうとし…

   5つの名前を持つ猫

「猫を抱き上げなさい話はそれからです」 と探偵は言った 「重たくて無理です」 飼い主はタマという猫を撫でながら答えた 他の人達はこそこそと別の方を見た 探偵は皆をぎょろり見回して言った 「犯人はここにいる全員です」 (つづく)

   またたび

山に柴刈りに行ったおじいさん 気がかりはまたたび山の猫のこと 今年はたあんと実をつけていたぞ 酔っ払って谷にでも落ちなきゃいいが

   まん丸

「売れ残りの固くなったのを転がしてやると 嬉しそうにいつまでもじゃれとったんですよ」 駐車場に丸い月が出ると 話しかけてくるおじいさんがいる 昔ここで団子屋をやっていたのだという

   朝

鉢の周りに銀色の動作線 月の光の下 静かな宴があった 鉢の底下で縮んで眠るナメクヂ 朝帰りの猫がやなりと通る

   ■

夢の中で猫を呼べば昔の猫もやってくる

   ■

傘さして猫待つ人になる

   曼殊沙華

一面の曼殊沙華と黒猫 一面の曼殊沙華と白猫 一面の曼殊沙華とグレー猫 迷う絵はがき選び

   比べ屋

「お兄さんは優秀,それなのにあなたは」 と分かっていることを言ってくる 「お友達はみんな出世している,でもあなたは」 と落ち込むことを言ってくる それで千円も取るのにお客は後を絶たない 帰りに年寄り猫を撫でさせてくれるのだ

   一束

畔道に稲穂が一束落ちていた それを見つけて鼠がやってくるだろう それを狙って風下から近付くものもあるだろう 月がそれを照らすだろう それを雲が隠すだろう

   一瞬

瞬きしている間に獲物に逃げられる だから猫は瞬きしない じるりじるりと距離を縮め ジジジッ腰を振り 今だっ ・・・・・・ 背中を舐めて自分を慰めている

   一本

「背中がクスクスする」次男坊が言う おばあさんが服の上から掻いてやる 「ここか?ここか?」「もちょっと上もちょっと」 お母さんは赤ん坊の世話で忙しい 服の裏には猫の毛が一本

   ■

猫抱けば丸くなっていく午後

   ■

いたずら猫を抱き上げてお説教

   雨

その人は公園で鳴いていた子猫を保護した 雨が降り出したし子猫はひどく痩せていたし その人はひどく痩せていて寝る所も無かったけれど 子猫はその日からその人の懐が寝る所になった 保護 ・・・ かばって守ること(三省堂国語辞典より)

   呼吸

「ほっといて,でもかまって」と猫 「かまって,でもほっといて」と子ども 「ほっといてくれ,でも・・・」とおじいさん 吸う息と吐く息 だんだん荒くなる どんどんさみしさ膨らんでいく

   秋仔

きんめぎんめ一まい しっぽまがり二まい はなぶち三まい 瀬戸物屋の猫をもらうと 皿がついてくる

   待っていた

猫に声をかけると 待っていたのがバレないように きゆっと体を固くする 振り向くのは耳だけにする

   待っている

バラは見つめられると ぱあっと美しくなる 見つめられることを待っていたので。 バラは見つめられないと ただ美しいだけ

   ■

猫を抱いて猫の見る雨を見る

   ■

猫を抱いて雨を見る

   部屋

コスモスは花瓶の中でも風に吹かれている 猫は野原で寝ている夢を見ている 壁の時計が少し遅れている

   捨て猫

〈信じるってことは 信じた自分を最後まで信じること〉 それは猫の血の中に代々受け継がれてきた 沢山の車や人とすれ違いながら子猫は 公園からずっと男の子の後をついていく もう一度抱き上げてくれると信じている

   朝方

無花果は年寄り猫こっちを向いた 葡萄はぎっしり猫の目の光 柘榴の実ニャアニャアニャアと騒がしい 果物屋が目を覚ますとそこには 御飯催促猫が居た

   明日

「明日は何をしましょうか」 おばあさんは毎晩同じことを聞く 「明日は今日やり残したことをしましょう」 おじいさんは毎晩同じように答える 猫が二人のまん中で眠っている 畑ではヤブガラシが新しい蔓を伸ばしている

   みやげ

一匹残らず売れてしまった日は 天秤棒の先の木桶に 道ばたのネコジャラシを入れて ひょこひょこ帰る魚売り

   ■

猫抱いて見る窓の夕焼け

   ■

猫抱いて嗅ぐ肉球 明日は雨