猫まち

山崎るり子・みじか詩

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

   間違い

「『どちらのお腹に入りますか? 人にしますか?猫にしますか?』 と聞かれたの だから 猫にしますと答えたのに どこでどう間違ってしまったんでしょうねぇ」 おばあさんは猫の頭を撫で撫で そんな話をしてくれた

   元気

子どもの元気は もっともっと知りたい 早く早く追いつきたいの元気 泣いているときも 子ねこの元気は もっともっとジャレたい ずっとずっと遊びたいの元気 眠っているときも

   皿

猫は死ぬまでの時間が全部 自分のものだったので 眠るのも病むのも背中を掻くのも自由だった 人間の膝でゴロゴロいうのも 人間の前から姿を消すのも思いのままで いつも猫皿が一つ残された

   譲渡会

あっちの子 あっ そっちの子 うーん こっちの子 そう この子 この子 この子 やっぱりこの子 こんどこそ名前がつくだろうか

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猫待てばやってくる静かな行列

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猫待つ人の背をあたためている夕日

   二匹 8

夜が明けて きた夜が明けて きたやっと 夜が明けてきた 雪の朝 二匹の猫の氷の髭の 千の光

   二匹 7

「寒そうだったから入れてやった」と犬 「寂しそうだったから入ってやった」と猫 小さな犬小屋で二匹はくっついて眠る 春になると猫はやってこなくなった 「清々した これで伸び伸び眠れる」と犬 「寂しいか」猫がふらりとやってくる ぱたぱたぱたぱたぱた …

   二匹 6

「二匹一緒に貰って下さい ずっと一緒に育ったんです 別れさせるなんて可哀想で・・・」 仕方ないので二匹一緒に貰ってきた 二匹は別々に食べ 別々に遊び 別々に寝て 別々に生きている 一匹は糖尿病の灰色猫で 一匹は漬け物石くらいあるアカミミガメだ

   二匹 5

「毛が抜ける痒い痒い」とシロ猫 「目ヤニで目が開かない」とサビ猫 寒い夜 二匹はくっついて眠る 「や,僕も目ヤニが出てきた 目が開かないと暗いね」とシロ猫 「や,僕も痒い 毛が抜けると寒いね」とサビ猫 「ずっと冬で ずっと夜みたいだね」と二匹 くっ…

   二匹 4

「いいかい 人間に体を触らせちゃいけないよ いいかい 人間の食べ物はこっそり頂戴するんだよ」 母猫がいなくなっても一匹は言いつけを守っている 風の匂いを嗅ぎ 耳をそばだて こっそりすばやく頂戴する もう一匹は人間に撫でてもらって膝の上でゴロゴロ言…

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猫抱いて猫の目で見るジョウビタキ

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猫が足元で鳴く外は雪

   二匹 3

猫と生まれたからには 猫を全うしたいですと茶トラ せっかく猫で生まれたんだもの 猫でいさせてとミケ 重なり合って朝からずうっと眠っている

   二匹 2

「もうすぐだね」と一匹 「もう少しだね」と一匹 二匹並んでトタン屋根の上 「やっ,ほら来てくれた」 「来てくれたね」 「あたほかだね」 「ほんほわだね」 瞳孔を細くして二匹 一緒の陽を浴びる

   二匹 1

「俺は腹が減った」とトラ猫 「僕はさっき食べたばかりだ」とブチ猫 「田んぼの畔の穴でも覗いてくるか」とトラ猫 「食堂の裏口で待てばいいのに」とブチ猫 寒い夜 二匹はくっついて眠る トラ猫は土と血の匂いがする ブチ猫は揚げ油の匂いがする

   うどん屋のおやじ

うどん屋のおやじは猫嫌い 鳴き声を聞くと寒気がする 寒気がすると力が入らずうどんのコシが今一つ 勘定場に置いてある招き猫に愚痴をこぼす

   吹雪

今度こそ太陽をみんなで 分けあおうねと一匹が言った 野原では低い雲と雪は 区別できない 冷たくなった猫もまだ温かい猫も もう区別できない

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猫を抱けば温かい

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猫抱けば爪にセーターの編目がはしゃいでしまう

   マスク

「人アレルギーですね」 クシャミの止まらない猫を診て獣医は言った 「人は近づいてはいけません 抱くなんて以ての外 しかしこの猫は運がいい 商品化されたばかりのこの猫用マスク 少々お高いですが」 飼い主はマスクを買って帰ったが 猫はマスクをしてくれ…

   もうじき

ののしいよお ののしいよお とおばあさんは泣いた その意味を分かる人は だれもいなかった ただ おばあさんの猫が短く鳴いて 暗闇に消えたのだ もうじき雪がくるというのに

   鍋と猫

土鍋の中で子猫三匹すやすやすや 鍋墨でまゆ毛描かれた白い猫 鍋島の化け猫の猫塚に供えられている猫缶一つ 鍋を囲む輪の中に猫も混じっている飲み屋

   黒猫

黒猫は闇の中で 夜に溶けてしまわないかと心配になる 立ち止まって短く鳴いてみる ああ聞こえた 僕はちゃんと居る 黒猫は尻尾をシンと立てて闇の中を行く

   白猫

白猫は雪の原で このまま消えてしまわないかと心配になる 立ち止まって脇腹を舐めてみる あああったかい 僕はちゃんと居る 白猫は足跡を真っ直ぐにつけて雪の原を行く

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猫待てば後ろからやってくる雪の気配

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もうこの星にいない猫を待つ

   夕暮れ

風を止め 雪を止め 息を止め そっとかがんでみたけれど 子猫を抱けない雪女