猫まち

山崎るり子・みじか詩

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

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猫抱けば花の香り 裏の家の沈丁花

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むかし猫だった粒子が光になって帰ってくる春の庭

   春風

たんぽぽが茎を伸ばして綿毛を放す 猫が後ろ足で背中を掻いて冬毛を放す 託されたものもいらなくなったものも 風は遠くに運んでいく おばあさんも両手を風の中で広げる

   猫狩り

この時 鳥は猫の味方だった 鋭い声で鳴き危険を知らせた 地から天にイナズマ走り 2秒遅れて染み出した血 枯草は靴の下で千切れ 猫はもうどこにもいない

   春

おばあさんと年寄り猫が やっと家から出てきた あったか薬が効いただなあ 椿が咲いた こぶしも山吹も咲き出した 人の腰にも猫の膝にもあったか薬は効くもなあ

   ノラキチ

引っ搔かれた噛まれた 春 舐められた頭を擦りつけられた 夏 ゴロゴロ言ってきた膝に乗ってきた 秋 家に入ってきた布団に入ってきた 冬 いつの間にか十四年 逝ってしまった置いてかれてしまった 春

   猫が死んだ

ああ千の入れ物は涙でいっぱいだ(飼い主) 貰った分の命すっかり舐めたよ(猫) もうお払い箱だな(猫砂) 何でも引き受けますよ深く掘ってね(庭) えっ何かあった? じゃっバイバイ(風)

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あの猫を待てばあの猫と二人きりになる

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冬の風も春の風もガラス戸の向こう猫を抱く

   三月の庭

落ち葉の下では蠢くものはまだ静かだ。 地上では冷たい先端を風が拭い 準備は整った。 やがて雨。そして。 黒猫が横切ったので光は真っ二つになる。

   毛玉

月の丸い夜のこと 眠れない人が丸くなって眠るころ 胃袋を裏返して黒猫 黒くて丸いものを吐く

   はる

ねこ ね こ とんで い け よ むふう じゃ わい

   春

若者は きめの細かい肌をして 笑っていた 歌っていた 走っていた おじいさんは猫を ハゲ頭に乗せて笑っていた ここまでおいでと 手を叩いていた

   春日向

「人間,ありゃあダメだね」と長老猫 「尻に集まっている魅力的な場所を隠してしまっている お天道様に全く当てていない あんなことをしていたら いつか亡びる」 皆ふんふんと聞いている 人間が居ても居なくても生きていけるよう ひっくり返ったり 尻尾をパ…

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一日の時間をゆっくりにして猫を待つ

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この町のどこかに今日も猫待つ人がいる

   縁側 5

少女はいなくなった猫を待っていた 待って待って待って待って おばあさんになった 待つのは得意なのと言った 待つのが暮らしなのと言った そしてニャアと鳴いた

   縁側 4

本屋のご隠居は尻で聞くという 毎年春になると縁側の下から 子猫の鳴き声がする

   縁側 3

嫁の悪口は言わなかった 無口な人だった 毎年生まれる猫の子を目の開かないうちに どこかへ連れていった いつも縁側に座り古い野良着を解いていた おばあさんが死んで押入れから手縫いの 雑巾が百枚出てきたそうだ

   縁側 2

逃げようともがいても足が動かない カラスは真上から来て嘴を突き刺した 傷口は花のように開き あたたかいものが体の表面を流れていく 日の当たる縁側で若い猫は怖い夢を見ていた

   縁側 1

サビ猫を撫でながらおじいさんが言った 「延命措置はしないでほしい」 トラ猫を撫でながらおばあさんが言った 「私のお葬式は樹木葬がいいなあ」 「何かが起きて二人一緒におさらばということもある」 おじいさんは言い二人揃ってだったん蕎麦茶をすすった

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この風を猫も聞いているのか猫を待つ

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猫待つ人いつも魚を少し残す

   猫がきて

猫がきていう ほろほろほろ きょうはとてもいいきもち 猫がきていう ほろほろほろ きょうはなんだかひどくさみしい 猫がきていう ほろほろほろ きょうはなんにもいいたくない

   聞いて 4

聞いて 僕は猫が好きでも嫌いでもないけれど 猫自慢する人たちの横でこっそり 話を聞いているのは好きだ その愛されている猫が僕の出会った猫の 子どもたちかもしれないと思ったりする

   聞いて 3

聞いて 猫はそこら中にいる 夜寝ている時も 夢の中に入ってくる 近寄ってきて僕を見上げてくる 夢の中で僕は子猫を抱き上げる

   聞いて 2

聞いて 友達と拾った子猫を飼ったことがある 空地の茂みにダンボールの箱を置いて でもみんなすぐに飽きてしまった 今でも思い出す 夏草の匂いと汚れたタオルと欠けた皿の中の 雨で薄まったミルクの色

   聞いて 1

聞いて 僕は猫をパチンコで打ったことがある でも当たったのは猫じゃなくて僕だったんだ 今でも脇腹に痛む場所がある

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手術した猫を抱けば少子化対策のニュース

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猫呼べば素足でやって来る三月