猫まち

山崎るり子・みじか詩

2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

山姥

「寝てばかりいねで山鳥百羽捕って来せねば食ってしまうど」 と山姥が言った 猫は出ていきメス猫つれて戻ってきて言った 「子ができてその子が捕ってくる また次の子が捕ってくる 百羽になるまで長生きしろや」 山姥は仕方なく二匹の猫を飼っている

   ミーコ

鈴の付いた赤いちりめんの首輪を 宿屋のおかみさんは帯に挟んでいる 階段を下りるたびに 去年死んだ猫も一緒に階段を下りる

   銭湯

服を着ようと 脱衣籠に手を入れたら猫に 噛まれた噛まれた追い出してくれと 女湯の前を走り回る裸の男 なんか あやしい

   カルチャースクール

猫の背伸びの美しいポーズ 美しい猫の背伸びの瞬間 ヨガ教室と写真教室に通う人 その人がいつか太った猫になってしまう という物語を書く課題

   子どもと子ねこ

猫を飼ったら 猫といっしょに毎日遊んで 猫といっしょに年取って 猫といっしょに死ぬんだ それからまた猫を飼うんだよ

   ■

猫町は戸口に立って猫待つ人ばかり

   ■

猫抱けば私は疲れていると思う

   窓

女の子は猫を抱いて思ってみる 見られているスズメの気持ち 男の子は猫を抱いて思ってみる 見ているだけの猫の気持ち

   里山

里山に猫がいた 弟は猫の頭に葉っぱを乗せて 「化けてみろや」と言った 「そんあふうで化けるは狸だが」姉は笑った 二人が薪拾いを終え帰っていくと 猫は狸に戻って山に帰っていった

   指切り

「のぉ~~ます,」 秋の風が針千本の上を渡っていく 約束は守られると思う 明るい光の中で結ばれた小指は 猫の目の透き間もない

   小春日和

「風の中でしてはダメ 思ってもいないものが 飛んできて口に入るかも知れないからね 」 子猫は母猫に言われたことを守っていたので 久しぶりの小春日和に 溜めておいたあくびを思い切りした

   薬売り

寄っておいでよ見ておいで そこの寝付きの悪そうなお兄さん 百匹の猫の寝息を千日かけて集めたという この妙薬 こうして一息吸い込めば そうら立ち所にねむ・・・・・・

   ■

猫を待って朝ドラ主題歌をくり返す

   ■

高く猫抱き上げて見せている地平線

   ヨモタさんちの猫(12)

「何歳ですか?」 みんなヨモタさんに猫の年を聞く でも猫に年なんかない 見てのとおり元気です…と 見てのとおりもうダメです があるだけ ヨモタさんちの猫は とても元気です

   ヨモタさんちの猫(11)

ヨモタさんちには猫がいる お母さんが亡くなった翌日 ふらりやってきた猫 ヨモタさんがご飯の支度を始めると お母さんの気配も白猫の気配も連れて テーブルに飛びのる ヨモタさんは薄暗い台所で 猫と賑やかな食事をする

   ヨモタさんちの猫(10)

「私はずっと待っていた でも私が待たれていたなんて」 ヨモタさんのお母さんはヨモタさんに夢の話をする 「だから私が帰ればいいんだ 私が帰っていくんだよ もうすぐ会えるよ」 風が壁に貼られた猫の切り絵を カサカサカサ踊らせる 白い猫の切り絵の影がく…

   ヨモタさんちの猫(9)

風の強い晩,ヨモタさんが帰ってこないお母さんを捜しに出ると 空き地の塀の角に大きな花 花のまん中に丸くなって眠っているのはお母さんだ 「さあさあ帰りましょう」ヨモタさんが引き起こすと 花びらは猫になってちりぢりに散っていき 「お前の手はいつも冷…

   ヨモタさんちの猫(8)

月の明るい晩,ヨモタさんが帰ってこないお母さんを捜しに行くと 公園で踊っているのは猫ばかり その中の一匹 丸くなってしまった背中は 猫に見えるけれどお母さんだ 「そろそろ帰りましょう」ヨモタさんが手を引くと 「お前は冷たい手をしているねぇ」お母…

   ■

猫抱けば猫抱いているだけになる

   ■

猫抱けば約束一つ思い出す

   ヨモタさんちの猫(7)

ヨモタさんのお母さんが溜めこんだリボンや紐が棚から溢れ出す 「明日捨てますよ」とヨモタさん 翌日帰ると百のリボンの先,百の紐の先に煮干しが結びつけてある 「町中の木にぶら下げに行くよ」 ヨモタさんは仕方なく一緒に出かけ 高い木 低い木 ブランコや…

   ヨモタさんちの猫(6)

ヨモタさんのお母さんの溜めこんだデパートの紙袋が廊下まで溢れ出す 「明日は捨てますよ」とヨモタさん 翌日帰ると百の紙袋から百匹の猫が首を出している お母さんは紙袋をぶら下げブランコのように揺すり 「やってごらん猫が喜ぶから」 ヨモタさんは両手に…

   ヨモタさんちの猫(5)

「帰ってきたとき家に猫がいたら 帰ってきた猫は悲しいよ 猫を待っている者は猫を飼えないんだ」 ヨモタさんのお母さんは時々夕暮れの町に出る 塀の裏 路地の奥 植え込みの端 側溝の陰に じぃっとしている四つ足の生きものの気配 お母さんは気配を集めて家に…

   ヨモタさんちの猫(4)

ヨモタさんのお母さんは毎日公園に行き砂場で遊ぶ そして帰りにスコップ一杯の砂を持ち帰る 「そんなことをしたら」ヨモタさんはそれ以上は言わない 「今日は隣町の公園まで行ってきたよ」 お母さんは持ち帰った砂を庭に広げていく 「庭を野良猫百匹のトイレ…

   ヨモタさんちの猫(3)

ヨモタさんのお母さんはカラスの羽が落ちていると必ず拾う 「ゴミ置場のゴミ袋の横に置いておいて カラスの仕業にするんだよ」 「そんなことをしたら」ヨモタさんはそれ以上は言わない 袋にはいつも穴が開けられていて食べ物がこぼれている 火曜日の朝 昨日…

   ■

猫待てば葉の落ちる音実の落ちる音

   ■

猫待てば崩れていく飛行機雲

   ヨモタさんちの猫(2)

ヨモタさんのお母さんは今日も猫を待っている 「もう帰ってきませんよ」ヨモタさんは言う 「ちゃんと帰ってきましたよ」お母さんは鋏を持って笑っている 左手には出来上がったばかりの猫の切り絵 「いなくなったのは白猫,それは緑の猫でしょう」 色とりどり…

   ヨモタさんちの猫(1)

ヨモタさんのお母さんは今日も猫を捜している 「ヨモタさんちに猫なんかいた?」と近所の人は立ち話 「そういう時おばあちゃん何歳?って聞いてごらんよ 十歳って答えるから」 「七十年も前の猫?ハハハそりゃあ見つかんないわ」 ヨモタさんのお母さんは高く…