猫まち

山崎るり子・みじか詩

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

   つづく 7

やってきた やってきた やってきた いえで猫 いえなし猫 春つづく けぬけ猫 まぬけな猫 夏つづく ひなた猫 ひなびた猫 秋つづく こたつ猫 ごろつき猫 冬つづく つづくつづくどこまでも つづく

   つづく 6

古書店の主は仕入れてくる 猫にまつわる本ばかり 『灰だらけ猫の秘密』『猫舌伝説』『猫さらいの最後』『猫柳の研究』『ねこのさかなやさん』『猫車写真集』『猫泥棒と泥棒猫』『猫まち』『猫に小判と鰹節』 近くで猫の鳴き声がする

   つづく 5

しっぽを立てて現れる 怪我した体も元どおり走ってやってくる 夢の中につづくは毎日帰ってくる 店主は布団にしっかりくるまって眠る 月の晩 古書店の裏庭にはあっちからもこっちからも 猫たちが影を青くして集まってくる

   つづく 4

古書店のつづくが突然死んだ 「すべて終わってしまった」と店主は言った 『今日休みます』 シャッターに貼った紙を風がくすぐっていく どこかの路地では ざくざくと猫の子が生まれている

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猫待てばもうだれもいない町

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猫抱き上げれば影一つ

   つづく 3

古書店の猫の名はつづく ときどきいなくなる 店主は店が終わると捜しに出る 暗闇の中で名前を呼んでいると 宇宙の最後のページに 立っている気がしてくる

   つづく 2

古書店の猫の名はつづくという ドアの隙間から入ってくる朝の光を 鼻先に付けるのが好き 人が入ってくると微かに動く仕切り布の影が好き 西日と本の匂いの着いた背中の毛を舐めるのが好き 店主と一緒に眠りにつくのが好き

   つづく 1

猫が店主の膝に飛び乗ると 「それではそろそろ」 「それではまた明日」とみんな おしゃべりを止めて帰っていく 古書店の猫の名はつづくという

   むかしむかし

昔々ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました 飼っていた犬は吠えて宝の場所を二人に教えました その隣に一人のおばあさんが住んでいました 飼っていた猫は縁側にいる時も寝る時も いつもおばあさんと一緒でした こうしてみんな幸せに暮らしたという…

   夜更け

おんぎゃーお おおんぎゃあお オス猫が鳴いている 底の方にあるやるせないものを あんなふうに体を絞って吐き出してみたい 若者は手を止めて黒い窓を見る そしてまたゲームの続きを始める

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猫待てば夜ごと大きくなる鳥の声

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猫待てば鳥の声風の声猫の声する

   望み

私の背中を豊かに撫でてください と猫が言った 私の胸に猫を乗せてください と病人が言った

   とうふ屋

母親のだいずはだいずと呼べば返事する きぬもめんおあげおからゆば 生まれたばかりの子猫たちは 自分がそんな名になったのはまだ知らない とうふ屋の朝は早い

   夕暮れ

胸のあたりのひとつに 湯を入れて よろよろと行く 雪の中の湯たんぽ売り

   公園

蓄えること止めたんだ だから時間はたっぷりある 蓄えるって何? はじめから時間はたっぷりあるよ ベンチでおじさんと猫 たっぷりの陽を浴びている

   猫三種

カタツムリ猫 背中の殻は炬燵です 影無し猫 下りるの恐がった影を木の上に置いてけぼり アイスクリーム猫 自分を舐めて舐めて消えちゃった

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猫待つ人と昔の話をする

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猫を抱いて風の通り道にいる

   冬暮れ

祠の前で 靴ひもを直して気づく 雪の上の 子猫の足跡

   独り暮らし

猫を抱いておじいさん あたためスタートのボタンを押す 猫も覗き込む40秒 今夜は雪になるらしい

   遠く

猫を捜しに出た少年は帰ってこずに 息子を捜しに出た母親は帰ってこずに 母子を捜しに出た村人たちも帰ってこずに だれもいなくなった みんなどこか遠くで 猫と一緒に暮らしているという

   窓

すぐそことここをはっきり分けるガラス窓 風のある場所とない場所の間で 鳥のいる場所といない場所の間で ヒイラギの花の香りのする場所と カレーの匂いのする場所の間で ガラスは時々猫の鼻先で濡れる

   セーター

一人が押さえていないと切れないので おじいさんが亡くなってからは 猫の爪は鋭いまま 何かのはずみで引っかかる おばあさんの水色のセーターは 雨垂れのような 涙のような 言えなかった言葉のようなものがいっぱい ぶら下がっている

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猫抱けば思い出せそう夕べの夢

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猫を待てば過ぎていくよ春も夏も秋も冬も

   あんた

「猫ちゃん」,子どもが呼ぶが振り向かない 「ほらほら」おばさんが煮干しを振るが振り向かない 「あんた 昨日も居たねえ」振り向いた 朝帰りのハイヒールの人は少しよろけてしゃがむ 「寒くないの? あんた」 猫はマニキュアの爪に撫でられる 猫は昔飼い猫…

   母猫

舐めて舐めて舐めている間に 赤ん坊は大きくなっていくよ 舐めて舐めて舐めていく間に 赤ん坊は私の子どもになっていくよ どこかの子が一匹紛れ込んでも それは何かのおぼしめし

   初売り

「この猫ロボは呼んでも来ません ほとんど寝ていて故障と区別がつきません」 とロボット売り場の人 「素晴らしい,ください」とおじさん 半年に一体ほど売れるという