2018-12-01から1ヶ月間の記事一覧
月は細い腕を伸ばして 冷たくなった猫の体を撫でました 静かに何度も撫でました それからお腹をすかせていた キツネの子を捜しに行きました
猫を片手に鱈の切り身に塩をふる
猫抱けば鐘が鳴るなりと言いそうになる夕暮れ
雪の日は冷たい音がする 金物屋の主人は並んでいる鍋を菜箸で叩いて ねこふんじゃったを演奏できる たださっきじゃったが売れてしまった
みるみる水浸しになっていく青い床を 二匹の白猫がふさふさの尾で掃いているのでした 水と思ったのは窓から流れ込んできた月の光で 二匹が尾を振ると金の雫が鏡の中で次々と開いて 理髪店の床は冬花火の下の湖のようでした
洗濯屋の汚れ猫と言って笑うなよ すすけ色は生まれつき すす猫がいると洗濯物が白く見える 受け取るお客さんにっこり 渡す洗濯屋もにっこり
無地がご希望ですか?それとも色柄物? 水玉,豹柄,縞模様,いろいろ取り揃えてございます どれも上質な毛100パーセント手触り最高 そのうえ生きております 店主は奥から子猫を大事そうに抱えてきた
飾ってあったネックレスが消えた 飾り窓の下に足跡があったと近所の人A 使用人が一人辞めたらしいと近所の人B 数日後店主は猫の首に光るものを見る 孫のおもちゃ箱のぬいぐるみの猫の首に
猫待てば「たき火」の歌流してやってくる灯油売り
乾物屋にも猫待つ人がいていつも一人
「ありがとう ではね」おばあさんはうれしそうに言って よろよろとその場所にしゃがみ込んだ 「じゃあね」猫もうれしそうに言って よろよろと草藪の中に入っていった 遠いところから来た光を反射させて 月は真上に昇り 町は湖の底の白い砂のように動かなかっ…
「おばあさんはどこへ行くの?」猫が聞いた 「私は自分の家に帰るところ そこで一人暮らしの続きをするの でも迷ってしまって ここはどこかしら 私の家はどこかしら」 「おばあさんの家からお月さんは見えた?」 「よーく見えたわ」 「じゃあ家はここだよ」
「こんばんは」とおばあさんが言った 「こんばんは」と猫も言った 「どこへお出かけ?」 「オイラは暗くて静かな場所へ行くところ 野良暮らしの続きをするんだよ そこでうずくまって待つんだ」 「何を?」 「おしまいを」
こっそり逃げ出そう 網戸を破って お月さんがきれいだ ああ いい風 こっそり抜け出そう だれも見ていない間に お月様がきれい ああ いい気持ち
外に出してもらえない 扉は全部閉まっている 野良の時みたいに草の側にいて 土の匂いを嗅ぎたいんだ だから 外に出られないの 自由に出かけられないの 一人暮らししていた時のように 好きな時に好きなことをしたい だから
猫待てば子供の頃の町になる
猫待てば日は暮れて出会った人たちの後ろ姿
ここは至れり尽くせりだ 寒くはないし 湿ってもないし お皿の上にご飯があって つぐらがあって でも ここは至れり尽くせりだ 話しかけてくれて 手を握ってくれて 食事を出してくれ シーツを替えてくれて でも
オイラはよぼよぼの年寄り猫です 弱って動けないでいたところを保護されて 今 ここにいる ここ? 人間の家の中 私はたぶん相当なおばあさんです 転んで動けないでいたところを助けられて 今 ここにいるの ここ? 老人ホーム
時計屋の 指サックの中の 人差し指には 猫の歯形がついている
染物屋の猫は代々白猫で 首に藍色の布を巻いている 染物桶に落ちたという猫は まだいない
写真館の飾り窓には 白黒の猫を抱いている少女の白黒写真 この人うちのおばあちゃんにそっくり と言っている女の子にそっくり
猫待てば猫さらいのうわさ山茶花散る
猫待てば昨日の人もやってくる
私もいつか透明になったら 夜の穴の入口で震えている人の側に行きます そこにただ居ることで私は猫の気配を纏うのです ミス・クラベルは今年最後の月に スリッパを新しくした
路上の似顔絵描きに描いてもらったのです 何かを抱えているポーズですねと聞かれたので 透明な猫を抱いていますと答えました ミス・クラベルはベットの横の棚に 額に入れた小さな絵を飾っている
小さなボールを机の上に置いて出たのです 帰ってドアを開けるとき息を止めて そーっとそーっと開けました ボールは置いた時のままで そのままで ミス・クラベルは一人暮らしが二十年になった
堂堂巡りの長い夜には きっと来てくれます 私が寝つくまで枕元で丸くなって ただ居てくれるだけの猫です ミス・クラベルは清掃会社に勤めている
ソファーに座ると感じるのです 今日も来てくれたと 私の横に静かに座って ただ居てくれるだけの猫です ミス・クラベルは小さなアパートに住んでいる
猫を抱く人の側で眠る