猫まち

山崎るり子・みじか詩

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

   ■

家の猫を待たせてペットショップで長居する人

   ■

旅先で買う猫へのおみやげ

   虹を描く

蛙 虹 猫 描く 四つの漢字二つずつ ちょっと似ている

   ありがとうの虹

「もっと降ってもっと降って 」と蛙 「はやく止んではやく止んで 」と猫 しばらくして雨が止んだ 「あっ降ったのを喜んでくれてありがとうの虹」と蛙 「あっ止んだのを喜んでくれてありがとうの虹」と猫 消えるまで一緒に見上げた

   雨と猫

「雨が降ったら雨やどり」と猫 「雨が降ったら雨おどり」と蛙 雨が降ったら踊っている蛙のことを考えれば 雨が好きになるかなと猫は思った

   雨の気配

「もうじき雨が来るよ 背中の皮がうきうきしてきたもの」と蛙 「うんもうじき雨が降るね ヒゲの先がじんじんしてきた」と猫 蛙は高い声で猫は低い声で「ああ」と言い 「じゃあね」と別れた

   猫と蛙

「僕はあの蛙とは違うよ 今日会うのは初めてで きのうはタンポポの所で会ったね」 「うん分かってきたよ 君は僕を一番よく知っている蛙だ」と猫は言った 「今度は君を一番よく知っている猫になるよ」

   ■

猫待てば隣の家の夕餉の匂い

   ■

猫抱いて薄荷のガムの息少しづつ出す

   夕ぐれ時

明るいが長くなったね 明るいが長くなった 夕ぐれ時が一番長くなったね 夕ぐれ時が一番長く長くなった 夕ぐれ時はさびしいね さびしいはなかなか暗くならないね

   眠れない夜

ニャーアと何度鳴いても 月は飛び越せなくて 気が動転してしまった 海の底でひっそりと 青い卵を抱いていたい いつまでも孵らない卵を いつまでもあたためていたい

   夕焼け

悲しい時は忙しいフリをしてセカセカ歩くといい 又は心臓の音を隠すように猫を抱くといい そう教わった 夕暮れの街は悲しい人でいっぱいだった その中に猫まで抱いて行く人を見た 西の空も見ないで

   口げんか

AとBの会話はどんどん激しくなっていった どちらも嫌な気分で別れた Bは猫と暮らしていたので 帰ると猫に慰めてもらえた 慰めてもらったのでBは 今ごろAは と思った

   晴れ間

帽子屋の猫は外が好き 紫外線が気になる店主 猫の頭上を飛ぶ帽子を考案中 もうすぐ雨が止む 猫は頭にハゲがある

   ■

猫を抱いて田舎の父に電話する

   ■

猫抱いて思うシンデレラのその後

   ゆかり先生

「先生,ももはおいしかったの?」 一年に一人くらいこういう子はいる 紙芝居にはもうイヌとサルが出てきている 「おばあさんもおじいさんもももをたべなかったの?」 キジも出てきて黍団子をもらった 「先生もそれは分からないなあ」次をめくる 夜 家でゆか…

   夜中

うちの猫が突然「ギイギャー」と鳴き この猫は恐ろしい猫だと何人かの人が思ったのが分かった ここで目が覚めた うちの猫は「ギイギャー」なんて大声は出さないのです 夢の中の人達は今も うちの猫は恐ろしい猫だと思っている

   ミミズ

口から肛門まで焼けるようだ 辛い じいっと辛い 「まだ生きているんだな 辛いんだな」 猫がやってきて言う ミミズはコンクリートの上で 干からびるには もう少し進まねばならなかった

   雨あがり

庭のすみのアオダモの木が 緑色を強くしたので その下を通る いつものうす茶の猫が 薄い

   望み

「一人暮らしになったら猫を飼うといいよと よくお母さんが言ってたなあ」 と言う人は九十七歳で 老人ホームの北側の部屋で 七十の娘が来るといつも ポツリと言う

   ■

猫抱けば風の音近くなる

   ■

猫を抱けば猫の一生を抱いていくのだと思う

   作品

ある朝花柄の座布団の上にさ 魂の抜けた猫のかたちがあったのさ 絵師は猫の形を抱いてさ泣いてさ それから今までで一番すごい魂の入った猫の絵を 描いたんだとさ

   猫は吐く

猫が吐く ネコジャラシの葉と穂 柔らかな小鳥の膵臓 七色の糸屑 ウスバカゲロウの羽 猫は吐く 赤ん坊の怖い夢 膝の上にいると耳にかかる 飼い主のため息 すっかり吐いて 裏返し日に当てた胃袋を元に戻すと 口角を上げ清々として歩いていった

   名古屋の猫

年寄り猫はトイレが長い 「よーけ飲みゃーすけえ よーけおしっこ出やーすなあ」 おばさん猫がチラと見て通り過ぎる 年寄り猫は砂もかけない

   雨の日

窓の外では ひさしが垣根が葉が 微かにそれぞれの音を立てていた 猫は部屋の長椅子に丸くなり 音の無い雨に濡れる 雨は毛を湿らせ眠りを湿らせ 猫をゆっくり重くする

   言葉

気持ちを伝えるために発する音はだらだらと 時間がかかりすぎる 噛み付く, そのほうがいい

   ■

飼い主の帰りを待つ猫の爪が伸び

   ■

黒猫待つ人にひそっと訪れるカラスアゲハ